赤い鳥「ベニマシコ」

紅葉も終わりに近づく頃から私は狙いを持って山に入るようになった。雪が降れば車で山に入れなくなるという恐れもあって、狙う相手が1日でも早く現われてくれないかと願いながら、時間のある限りカメラを持って山に入った。
 相手は冬鳥「ベニマシコ」。オスの体は美しい紅色、3年前に1度見ただけで大好きな鳥になった。いかんせん寒くならなければ姿を見られない鳥だから、遇えたら寒がりの私にとっては奇跡というもの。始まった紅葉を楽しみながら、いつか見た場所で待ってみる。
 声だけでも聞けたらと耳を澄ます。色んな小鳥が鳴くのは聞こえるし目の前に出て来てくれたりしていても動かず待ってみる。そして狙ってから何日になるのだろうか、遠くでベニマシコの頼り無げな声がした。
 あぁ、ここまで来てくれますように。ベニマシコの声が大きくなった。こんなに美しい紅色だもの雪の中で撮りたいな。おっと、寒がりだったっけ。

12/10付
もこもこ「ノウサギ」

雑草に覆われ車が一台通るのがやっとの山道。ゆっくり下りながら雑草の中に居るノウサギに気付いた。20b先、ドキドキしながら車を止め、そ〜っとドアを開ける。開けたままのドアに隠れて後部座席に置いていたカメラを取る。三脚をセットし雑草の中のウサギを探す。見失ってしまうほど雑草に溶け込んでいる。ふふっ、もしかしたら隠れたつもり?
 シャッター音で耳が立ち、体の向きを変えた。「逃げられる!」と焦ったら、なんとウサギが歩く方向は私のいる方向(ぎぇぇ)。途中草を食べに止まるけどシャッター音でまた歩き出す。ぴょんぴょん。いや〜、来ないで、近づかれると望遠レンズでは、撮れないのよ。止まってぇ!
 ついにウサギは私のシューズのつま先で止まった。そんな〜、動けない、撮れない、もちろん捕れない。撮るのを諦めたら、足元にいるノウサギのもこもこの可愛らしさを堪能できた。
2007/11/8付
美食家「メジロ」

収穫の秋が来て野山の恵みも次々に熟れはじめた。山栗はイガをパックリと開けていて、その下をくるりと見回すと茶色の丸い栗がコロコロと落ちて、秋の日を受けて光り輝いている。栗は2、3個私に拾われ、上着のポケットに収まるんだけど、あとは山の生き物たちのために残しておく。
 木を見上げて歩いていると、見つけるのは栗だけじゃない。この日は口を開けたアケビも見つけた。う〜ん、ちょっと高過ぎて残念ながら届きそうもない。アケビはそうそう見つけられないんだけどなぁ、諦めて小鳥達へ上げることにした。実のあるところには小鳥が来る。しばらく待ってみるとこにしよう。
 「チチチ」。ほらね、可愛い声が近づいてきた。私を気にしながら遠慮がちにアケビの中へ顔を埋め、メジロが実を食べ始めた。脅かさないようメジロが安心して食べ始めるまでジッと様子を見る。「あ〜ぁ、美味しそうだな〜」。
2007/10/18付

     
懐かしいな「カワラグミ」

カワラグミの小さな実が生って赤く熟し始めている。幼い頃に食べた甘酸っぱくて渋みのある記憶が懐かしく甦る。食べたと言っても名前の通り河原に行かないと見つけられないカワラグミを、山地で生まれ育った私が食べることが出来ていたのは、私がカワラグミを好きだということを知っていた母が、出かけた折にわざわざ河原に下りて採り、土産に持って帰ってくれていたからだ。
 幸いなことに姉弟の中でカワラグミが大好きだったのは私だけだったものだから、土産の枝にビッシリと生っている赤い実をいつも一人占め出来ていた。カワラグミは、幼い私が自分で採りに行ける距離には無かった。だから、私にすれば1年に一度食べられるかどうかと言っていいほど貴重な食べ物だった。
 野原を歩くようになり、カワラグミの赤い実を見つけると、いつも時代がさかのぼる。今年も赤い実の中に笑顔の母と幼い頃の私が見えた。「可愛かったなぁ…」。

2007・10・9付
   
収穫の秋「ヤマガラ」

素朴で繊細な花を咲かせていた山の木々が実を付け始めた。花を見るのと実を見るのとでは、印象がまったく違って見えて、まるで別の木を見ているよう、どんな花が咲いていたのか、思い出せないほどだ。
 その点、ウルシの実は花でも実でも葉を見るとすぐに判る。花はこぼれんばかりに咲き下がるし、同じようにたっぷりと実も付く。その実は今まさに収穫時になっている。ただ、収穫するのは私ではなくて、小鳥達。その小鳥を待っているのが私。
 ウルシの実を見つけたら全然気になんてしていない素振りで明後日を見る。そして意識を思いっきりウルシの実に集中して待つ。やがて、どこからか賑やかな声が聞こえてくる。来た、来た。実に近づいてくれる鳥がいないかと、期待する。
 木々を渡って来たのはメジロの群れ。興味ないのか、ウルシに近づかない。「・・・」。ウルシから標的を変えようと思った時、1羽がツーッと飛んできてウルシの実を啄んだ。「あら、あなたも居たの?」ファインダーの中には実を銜えたヤマガラが居た。
2007・9・18付

可愛いよ「スズメウリ」

野原を歩いていると新緑を思わせる鮮やかな緑の葉をつけたツル植物を見る。今、5ミリほどの白い小さな花を盛んに咲かせている。スズメウリなんて名前まで可愛い。
この日、久しぶりに自然大好きの友が遠方より会いに来てくれた。友を誘い、お目当ての草花を一緒に見るため、いつもの散策コースに行く。そこでもスズメウリが蔓延っていた。花と一緒に実も付けている。その時、友が教えてくれた。「これ食べられるんだよ。胡瓜みたいな味がするよ」。
前から、見た目にも美味しそうな実だと思っていたものだから、食べられると聞いて早々に口に入れる。瑞々しくて少し青臭く、確かに胡瓜の味がした。しばし、観察を忘れ次々と食べまくる。『見て可愛い、食べて美味しいスズメウリかな』一句。嬉しいなぁ、楽しみがまた1つ増えた。
2007/9/8付

クサフジの花に「ツバメシジミ」

連日の猛暑続き、暑ければ家の中へ入り水分を摂れる私達と違い、野山の動植物はさぞかし難儀をしてるだろうな。
 案の定、あんなに賑やかだった小鳥の声が聞こえない。大きな声で鳴くヒヨドリの声さえ元気じゃない。私が歩く先へ先へと木々を飛び移る姿も見えない。そうよねぇ、こんなに暑かったら鳴く元気も飛ぶ力も出ないよね。猛暑の中、小鳥達は葉の中や茂みに入ってジッと耐えているようだ。
 暑さに強いクサフジさえも咲きながら生気を失っているように見える。少し前には、緑の葉も生き生きと、紫の花も鮮やかに、目の前に一面咲き競って楽しませてくれていたのにしなだれている。
 しなだれたクサフジの花の中に咲いたばかりの元気な花を見つけた。夏の日に照らされながらも初々しい。初々しさに魅かれたのが他にもいた。ひらひらとシジミチョウが飛んできた。「おお!君は元気だね」。
2007/8/29付
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